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躍進の匂い
仕事柄、世界各国へ赴く。おもしろい事に空港に着いたとたん、その土地土地の匂いというのを感じる。モスクワの匂い、フランクフルトの匂い、アムステルダムの匂い、、、。韓国の匂いはキムチの香りがし、ニューヨークは排ガスの硫化化合物臭、そして成田に戻ると愉快な事に米ヌカの香りが迎えてくれる。そこに住む人々には意識されないものだが、各家庭毎に独特の家の匂いがある如く、各個人の身体に独特の体臭がある如く、明確に土地毎の匂いというのが在るのだ。具体的に“○○な様な”と形容できるものは希で、そのほとんどは複雑で微妙なニュアンスのもの。単純に“良い匂い”“悪い臭い”と二分できるものでもない。しかし私の嗅覚は、いつもその土地の居心地の良さ、悪さを脳に伝えている。そして、当然、岡山にも岡山の匂いなるものが在る。 年間100〜150公演になると思うが、その中で毎月通う土地がある。横浜、京都、神戸、福岡などで、岡山もそのひとつだ。私にとって居心地の良い匂いの土地なのだ。住民の衣食住の匂いとは、ごまかしのきかないリアルな生活文化の匂い。『当地は文化不毛の地でございまして・・・』という台詞を、あらゆる土地(国内)で耳にした。岡山においてもだ。 私は大声で言い返す。どこが文化不毛なものか。JR岡山駅で旅人をまず最初に出迎えるのは、あの岡本太郎さんだ。原色の爆発。破砕する陽光に、上昇する人の群れ。セラミック壁画の至宝“躍進”だ。そして桃太郎像、チンチン電車、岡山城、後楽園。巨大な商店街に飲み屋街、教育施設、そのいずれもが老若男女を問わず、おおらかにエネルギッシュに活性している。かつて高度な巨石文明を創り出した吉備王国の末裔は、類い希なる漆黒のメニュー“えびめし”を食卓に、今なお独特で、生命感あふれる生活文化の芳香を放っている。 先日、イマージュという店で演奏した。店主の陽子さんと、私の友人・高倉君との結婚を祝っての、極私的な演奏会のつもりで、情報誌やWeb上での事前告知は一切おこなわなかった。告知といえば店内に貼られた陽子さんの手書きのポスターと、クチコミのみだった。ところが演奏を始めると、満席どころか立ち見客がぎっしり。店内に入りきらないほどで、私も50センチ四方ほどの演奏スペースぐらいしか得られない盛況。一旦、店の外へ出て知人の手を引っぱって戻ってくる客もいる。他の店の主も来席し、わざわざ急いで仕事を片付けて駆けつけてくれたライブハウス店主の姿まであった。皆、大いに酒を飲み、歓喜の声で激しく、私の演奏を楽しんでくれる。渦を巻きながら、上昇していくような勢いがあった。 ライブハウスなど、水商売関係の場所には日常的に出入りしている私だが、このような様相は初めてで、たいへんに感動を覚えた。現在の不況下、我が店を何とか守るべく、どうすれば他店の客を引っぱり、他店以上に賑わうかと、頭悩ませ奔走する店主の姿が当然。ところがイマージュの渦は、そしてこの飲み屋街の渦は、まったく異質に健全だった。客も他店の店主も(意識的にも無意識的にも)エリア全体を盛り上げている。私は今まで演奏していて、客の中に他のライブハウス店主を見た事が無い。それどころか彼は職務的義務感で居るのではなく、イマージュを楽しんでいるのだ。ショッキングな風景だった。また、本誌の存在すること自体が、この盛り上がる渦の実証でもある。 破砕する私の音の放射、その中を爆発的に上昇するイマージュの客。壁画・躍進そのままの原色の風景が、そこにあった。自らの匂いに無自覚で『文化不毛の』などと自嘲する本誌読者諸氏に、旅人の私から告げよう。あなた方の匂いは“躍進の匂い”なのだ。 2001.12.05 JINMO 企画、編集/エンゲル秋篠 <岡山市タウン誌“Sheets of Music Vol.14(2002年1月発行)”への特別寄稿文> |