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生殖としての芸術
個体を維持するための食欲、種を維持するための性欲、これら本能は我々の日常における自明性の根源となっている。人は何故、芸術行為をおこなうのか、という疑問の解答もここにある。 男性がより数多く、地理的により幅広く、自らの遺伝子をばらまきたいのは、学習行為ではなく抗い難き本能に基づいている。体力、知力、はたまた財力においても、他者よりも優位であろう、加えてより優位であるかのように振舞おうとする虚勢も、女性に対して自らの遺伝子情報の優秀さをアピールしたがっている点において、生殖行為の外周といえる。これを一般に闘争本能と呼ぶが、私は生殖本能を根源に持つ淘汰的欲求だと考える。人がより美しいもの、より強いものを愛し求めて止まないのは、性欲そのものであり、この“より”という部分が“淘汰”を生み出している。原人の化石から大規模な戦闘の跡が確認されている。我々は政治的、経済的、文化的に戦争をおこなっているのではなく、数百万年単位で生殖行為の外周として、これを続けているのだ。従って今後数百万年、人が人である以上、つまり人為的に遺伝子改造が施されぬ限り(その時は生殖本能も破壊されるだろう)、戦争を含むあらゆる戦闘的行為が放棄される事はない。 基本的には男性と同様だが、女性はその生殖メカニズムの違いから、男性と異なる点がある。自らの生活圏で、より優秀と判断した男性の遺伝子を受け入れ(ここまでは同じ)、その結果、妊娠、出産、育児というプロセスの間、彼からの保護(狩猟による食料採取、外敵の撃退)を求めるのだ。しかし男性は常々遺伝子をばらまきたいものだから、他所での生殖を実行したりする。そうした現場に直面した女性は理性ではなく、本能で「この浮気者!」と罵倒し、あらゆる努力でもって自らの元へ引き戻そうとする。このジェラシーは対象となる男性の、つまり遺伝子の優秀さが否定されるまで収めることができない。戦争においては男性は死ぬまで戦うが、女性は新たに生活圏に現れた優位な遺伝子宿主をいったん認めると、それをすんなりと受け入れてしまう。各地で歴史的にも戦後、占領地での混血化が一般的に混乱無く見られるのが、その証左だ。 遺伝子情報を残したいという強烈な欲求が、戦争も含めた我々の文化のあらゆる面をデザインしている。この欲求は強過ぎるが故に、代替行為の必要すら生み出す。まず「遺伝子情報を残したい」というのが「生きた証を残したい」というように文化的に翻訳される。たとえ遺伝子でなかろうと自らのデータを残す事で、及ばずながらも満足感を得られる。たとえば写真を愛する事。卒業、結婚、旅行、あらゆる局面で写真を撮影する。そしてそれを死ぬまで大事にする。“想い出”と名付けられた“データの保存”。保存された卒業文集。保存された絵画。読者の押し入れにも、これら想い出が保存されているはずだ。そして、保存すべきデータを作る事が快感となる。このデータを作れば快感が得られると気付いた時、人類は芸術を発明したのだ。“芸術”とは代替生殖行為だ。 文学者の一文字、画家の一筆、音楽家の音符ひとつは、敢えて下世話な表現をすると、腰の一振り。作品の完成(オーガズムス)まで、本人は元より誰も止める事はできない。未完では「死んでも死にきれぬ」。より優秀な作品を残すために寝食を忘れる。データ作成の圧倒的快感。そう、芸術は生殖。故にすべての芸術はエロスと抱擁する。人は優れた作品に、そして作者に対してエロスの連想を禁じ得ない。画家ピカソ然り、音楽家モーツァルト然り、俳優モンロー然り、歌手プレスリー然り……皆エロティックだ。優れたデータを残すのは、優れた遺伝子を残す事と同様に受け入れられるのだから、そこに性的魅力があるのは当然だ。「すべての人は芸術家だ」と岡本太郎画伯はいった。それはまったく正しい。芸術は高尚でも何でもない。すべての人が快感とするデータ作成行為に過ぎない。あなた自身に関わる快感行為だ。哲学的にセックスしても気持ち良くないように、快感のみをナビゲーターに芸術しよう。芸術はセックス同様、学問でも産業でもない。オルガズムス……そう、爆発!。有名な言葉だ。忘れるな。『芸術は爆発だ!』。そしてあなたも爆発できる! <ギターマガジン誌 2003年11月号掲載の“禁断の華園・第85回”への寄稿文> |